神経ブロックによる痛みの治療

痛み止め・湿布・電気治療を卒業しましょう

内服薬だけで勝負しない

当院が受診対象としている疾患や症状は、痛み止め・湿布・電気治療では痛みの改善が困難な領域です。実際、受診される方は処方薬がてんこ盛りです。神経痛に内服薬は効果がなく、慢性的な痛みは多かれ、少なかれ痛みの感作(脳が痛みを過剰に受け止めている状態)が存在しているので内服薬だけで治療するのは困難です。
内服薬だけで勝負すると、量と種類だけが増える一方、眠気やふらつきなど副作用ばかり目立ってきます。それでも痛みはほとんど改善しません。高齢者にとって活動性を低下させる治療は望ましくありません。眠気やふらつきは転倒のリスクを増加させます。痛みのため外に出なくなると筋力低下が進み、寝たきりの原因になります。また、人と関わらなくなることで認知症が進みます。

魔法の処方箋を探さない

大病院だろうが、場末の小さな診療所だろうが出される薬はどこでも同じです。魔法の処方箋はありません。効果を感じないようであれば、それが内服治療の限界です。

治療方法を検討する必要があります。

神経ブロック(ブロック注射)とは

神経ブロックは一時的な痛み止めではなく、痛みの程度を長期にコントロールしていく治療です。

神経ブロックは神経やその近くに薬を注入し、痛みの伝達を遮断する手技です。

痛い場所に注射するのではなく、痛みの原因になっている神経の場所に注射します。

神経ブロックの効果は様々ですが、当院で行っている神経ブロックの代表的な作用としては以下のものが挙げられます。

  • ・交感神経遮断による血流増加作用
  • ・痛みの遮断による「痛みの悪循環」の抑制と痛みの感作の解消

慢性的な痛みがある組織では、交感神経という緊張状態のときに働く神経が過剰に働いており、組織への血流が悪く、炎症性物質が蓄積されています。

またこの状態での痛みが脳に伝わるとさらに緊張状態が高まり痛みが悪化する、「痛みの悪循環」が形成されていきます。

神経ブロックにより交感神経が遮断されると血管が拡張し、血流が良くなり、炎症性物質が洗い流され、傷ついた組織の修復が促進されます。また、痛みの伝達が抑制されることで痛みの悪循環が断ち切れ、痛みに対して過敏になっている脳の状態(こういった状態を痛みの感作と呼びます。)を改善します。こういったことが痛みの改善につながっていきます。

局所麻酔薬の効果自体は数時間ですが、通常、薬の効果時間以上に鎮痛効果は長く続きます。最初は数日程度の効果でも繰り返すことでだんだん痛みが出づらくなってきます。

つまり、痛み止めを服用するのと違い、神経ブロックには治療効果があるのです。

Cアームを使用した透視下神経ブロックについて

最新の透視下神経ブロックについて(Cアーム)

当院ではCアームを使用したX線透視下で神経ブロックを行っております。

Cアームは文字通りCの字の形をした装置です。通常のX線透視装置はX線の照射方向を1方向しか動かせませんが、Cアームはあらゆる角度に変えることができるため、撮影方向を自由に動かせます。

主に骨折の手術やカテーテル手術に用いられることの多い大型の装置で、神経ブロックに使用している施設は少数です。

X線透視装置の必要性

一昔前はほとんどの神経ブロックは盲目的に行なわれていました。体表から深い部分に正確に針を誘導して注射するには経験と熟練した技術を必要とし、それこそ神業だったのです。しかし、その技術の影では多くの患者さんが痛い思いをしてきたのです。時間がかかったり、何度も針を刺し直すことによる出血や腫れによる痛み、失敗や不完全なブロック、こういったものが神経ブロック=痛いというイメージにつながっているのではないかと思います。

テクノロジーの進歩ととも画像装置が普及し、難易度の高いブロックでも画像装置を使用することで比較的容易に、安全に施行できるようになってきました。また、画像装置を使用すると第三者も何をしているのかがわかり、技術指導も容易になります。これからの時代は安全性や確実性を考慮すると画像装置を使用は必須になってくるでしょう。

神経ブロックを行うにはX線透視下や超音波ガイド下での方法がありますが、それぞれにメリットがあり、手技に応じて適した方を選べば良いと思います。近年、小型の高解像度の超音波装置が安くなり急速に普及してきており、本当はそれ1台で済ませられれば良いのですが、実際はまだまだX線透視装置の方に軍杯が上がります。当院でわざわざ大型のX線透視装置を導入しているのはそういった理由です。

Cアームを使用したX線透視下神経ブロックの利点

X線透視装置は1方向にしか管球を動かせない簡易なものもありますが、当院に導入しているのはCアームという文字通りC字型ををした管球を自在に振れる大型のX線透視装置です。骨折の手術や心臓のカテーテル治療でも使用されます。

骨の隙間が見えるので針の刺入が容易

X線は骨を見ることができます。あらかじめ骨と骨の隙間がわかれば、背骨の中に針を進めるのは容易になります。特に高齢者では骨の変形が強く、骨の隙間が見えないこともあります。盲目的なアプローチでは何度も刺し直して、針が入らないとあきらめるわけですが、X線透視の場合、最初からこういった場所は避け、隙間のあるところから針を刺入するだけです。わざわざやりにくところを選ぶことはありません。背骨がねじれているような場合でもCアームでは管球の方向を変えれば済むことです。患者さんを動かす必要はありません。

リアルタイムに針の方向を確認し、修正できる

ブロック針は細くしなるため、針をまっすぐに進めるのは意外と難しいのです。少しのずれでも深部では目標から大きくはずれます。これはX線透視下でブロックの経験がない医師の方は一生理解できないと思います。針はしなると切り口と反対側に進む性質があり、逆にこういった性質を利用し針を誘導することをベベルテクニックと言います。

神経根ブロックのような深部のブロックは、体表から約8-10cm程度になることもあります。盲目的には不可能なため、X線透視は必須となり施行できる施設は限られます。

 

針の深さや薬液の広がりを確認できる

簡易的な透視装置は管球が1方向にしか動かせないため側面像を見ることができません。Cアームではさまざまな方向から画像得ることができるので、例えば、背骨を横から見ることで針の深さや薬液の広がりを確認することができます。これはCアームならではのメリットです。正面像で針の位置、側面像で深さがわかると情報は3次元になります。

硬膜外ブロックはきちんと硬膜外腔に薬液が広がらないと効果が出ません。腰椎すべり症や手術後の方などは薬液が広がらないこともあります。薬液の広がりを確認することは重要です。

 

超音波画像装置による神経ブロックについて

超音波画像装置

超音波(エコー)検査超音波画像装置を使用した神経ブロックのメリットとしては軟部組織の描出が優れていることが挙げられます。筋肉や血管がわかりやすいです。血管は拍動もわかるため静脈と動脈の区別も容易です。また、骨は超音波を強く跳ね返すので、神経が出てくる骨のくぼみや穴なども確認しやすいです。当院では主に星状神経節ブロック、眼窩下神経ブロックなどに使用しています。

よくある神経ブロックの質問

よくある質問を以下、Q&A形式で解説しております。

神経ブロックがどうして必要なの?

内服薬で高い鎮痛効果が得られ、満足度の高いものがないからです。

多くの方が薬は効かないと来院してくるのが現実です。

内服薬のみで対処すると種類と量ばかりが増えます。量を倍にしても効果は倍になりません。副作用による、ふらつき,眠気ばかり出ます。特に薬物代謝能力の低い高齢者では、活動性の低下来すことが問題になります。眠くて1日寝ていることと、痛みがないこととは別問題です。

脊椎疾患では最初から神経ブロックの治療を選択した方が良いです。

神経ブロックの場合、注射薬はすぐに代謝されてしまうので体内で留まっている時間は短く、基本的に副作用は考えなくて大丈夫です。

どういった疾患に効くの?

当院が受診対象としているものは全て神経ブロック治療の効果が高い疾患や症状です。

たとえば‥

  • ヘルニアの坐骨神経痛や脊柱管狭窄症などの歩行障害、慢性的な腰痛などに神経ブロックは効果的です。
  • 重症の首こり、肩こりなどにも良く効きます。
  • 帯状疱疹にかかったら早いうちに神経ブロックの治療をした方が後遺症を少なくできます。
  • 三叉神経痛は高周波熱凝固術を行うことで痛みから解放されます。

痛いの?

痛みは、採血程度と説明して降ります。

みなさんが1番気になるところではないでしょうか。

  • ◆ 神経に当てないブロック(硬膜外ブロック,腰神経叢ブロック,星状神経節ブロック)は採血程度の痛みですと説明しております。

◆ 神経に当てるブロック(神経根ブロック,三叉神経ブロック)は多かれ少なかれ痛みはあります。

最初は痛くないブロックを選択しております。

一般に皮膚は痛みを感じる組織ですが、皮下組織に入ると痛みはありません。靭帯や骨膜は痛みを感じますが、耐え難い苦痛はないです。どのブロックも薬液が入るとズーンと響く感じがあると思います。

初めての方は緊張して受けておりますが、終わった後に感想を聞いてみるとほとんどの方が痛みはそれほどでもなかったとお答えになります。

麻酔とは違うの?

神経ブロックは一時的な痛み止めの手段ではなく治療です。

これは血流を良くしたり、神経の炎症を引かせる効果があるからです。

通常、薬液は1時間程度で代謝されてしまいますが、効果はそれ以降も続きます。効果は人それぞれです。ぎっくり腰などは治ってしまうことも多いです。神経ブロックは神経の数だけブロックがありますが、疾患の治療として使用できるものは限られています。

神経ブロックは手術の代わりですか?

神経ブロックは手術の代わりになるものではありませんが,神経ブロックで痛みが解決することは多々あります。

手術をしなくてはならないケース、手術が強く勧められるケースにおいて、それを回避するのは治療の機会を失うことになりかねません。当院では手術適応と思われるものに関しては積極的に勧めております。

神経ブロックのできない人は?

血液を固まりにくくする薬を服用している方は原則として施行できません。

神経ブロックは圧迫止血ができない深部部位への注射になります。

抗血小板薬、抗凝固薬など、いわゆる血液をサラサラにしたり、固まりにくくする薬を服用している人は、施行できる神経ブロックは大きく制限されてしまいます。

これは神経ブロックの最大の弱点です。

特に、高齢者は脳梗塞,心房細動などの不整脈,心臓病などの治療でこの種の薬を服用していることが多く、場合によっては休薬ができないこともあります。服用中の方は主治医の先生とよく相談していただく必要があります。

ブロック注射の治療を他院で受けましたが、効果がなかったのですが‥

まず、受けた治療が本当に神経ブロックだったのか確認が必要です。

ブロック注射という言葉は多用されますが、神経ブロックを指しているとは限りません。トリガーポイントを神経ブロックと誤解している方もいらっしゃいます。一般的な整形外科では神経ブロックはせいぜい、仙骨硬膜外ブロック程度でそれ以上の神経ブロックはやらないと思います。ほとんどがトリガーポイント注射です。

神経ブロックは通常針を刺す場所は1カ所であり、痛い場所に注射するのではなく神経のある場所に注射します。また、ブロック後は安静時間があるのが普通です。

次に、神経ブロックが行われている場合、それが成功しているかが問題です。

神経が薬液に浸らない限り効果は出ません。せっかく施行しても適切に施行できていなければ全く効果がありません。

当院では必ず薬液の広がりを画像で確認し、臨床所見も確認しております。

他院で施行して効果のなかった同じブロックを当院でやり直すと効果がでる場合は多々あります。特に整形外科で行われた仙骨硬膜外ブロックは不成功であることが多いです。

神経ブロックは成功しているが症状の改善が乏しい場合、これは診療で見極める必要があります。ブロックの種類を変えてみたり、場合によっては手術適応になることもあります。

何の治療を受けたかわからない場合、診療明細をお持ちいただけるとよろしいかと思います。

超音波装置(エコー)を使用した神経根ブロックを受けましたが効果は同じですか?

超音波下とX線透視下で行われる神経根ブロックとは別物と考えた方が良いです。

近年、高解像度の超音波装置が安くなり、導入する医療機関が増えました.

もちろん,当院にもあります。

手軽に超音波ガイド下の神経根ブロックが行われるようになりましたが,X線透視下で行われる神経根ブロックとは別物と考えた方が良いです。

これは,造影剤を使用し薬液の広がりをレントゲンで比較すると明らかなのですが,超音波ガイド下で行う神経根ブロックの場合,ブロックしている部位が透視下で行う場合よりも末梢になるためです。骨は超音波を強く跳ね返すので中枢よりでは骨のと被り画像を映せず,神経がはっきりと見える末梢の部分でしかブロックできないことによります。また,超音波下では薬液の広がりは限られた範囲しか見えません。

超音波ガイド下で効果がなかった場合でもX線透視下では効果が得られることが多いことは、どちらの方法にも精通している先生方の間ではよく知られていることで,ペインクリニック学会でもたびたび取り上げられるテーマです。

現時点では神経根ブロックはX線透視下で行うのが一番治療効果が高く、確実です。

よく使用される神経ブロック

星状神経節ブロック

星状神経節は盲目的に行われる神経ブロックですが、当院では超音波ガイド下で施行しております。

頚部の交感神経が遮断されることで、この領域の血管が拡張し、血流を増加させることが目的です。

顔面の痛みや頚椎症、椎間板ヘルニアなど頚椎領域の痛みの治療などで行います。

星状神経節は首よりも下、鎖骨あたりに位置する交感神経節です。頸部の交感神経は頸長筋や頭長筋の近傍にあるため、ここに薬液を浸潤させて間接的にブロックをします。盲目的アプローチでは第6頚椎、または第7頚椎の横突起とういうところに針を当て、頸長筋に浸潤させることで効果を得るのですが、第7頚椎の横突起の傍には椎骨動脈があり、血管穿刺のリスクがあるため、通常は第6頚椎レベルで行うことが多いです。実際はこのレベルだと星状神経節まで薬液が広がらないことも多く狙った効果が得られないことがあります。

当院では超音波ガイド下で頸長筋内の薬液の広がりを確認することで確実に効果を出すようにしております。

ペインクリニックでは初歩的なブロックですが、狙った効果が出ているかは見極めねばなりません。

星状神経節ブロックの動画はこちら

硬膜外ブロック(頸部・胸部・腰部、仙骨部)

腰部硬膜外ブロック背骨の中の硬膜外腔というスペースに注射します。
首、胸、背中、腰、お尻などブロックを効かせたい部位に合わせて位置を決めます。

ペインクリニックでは星状神経節ブロックと並んで多用されるブロックですが、硬膜外腔は数mmしかないスペースなので外れると全く効きません。

また、手術で背骨をいじっている場合は硬膜外腔自体が存在しない場合もあり、X線透視下で薬液が広がるかどうか確認する必要があります。
帯状疱疹の痛み、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など様々な疾患の治療に用いられます。当院で最も施行しているブロックになります。

硬膜外ブロック(頸部)の動画はこちら

神経根ブロック

背骨の中を通る脊髄という太い神経の束から神経が分岐した部分を神経根と呼びますが、骨や椎間板によって圧迫を受け炎症を起こしてしまうことがあります。
ヘルニアにより圧迫されている原因神経を同定したり、神経根の炎症の治療時などに用いられます。かなり深層のブロックなのでX線透視下でないと通常は行えません。

三叉神経ブロック

主に三叉神経痛の治療時に行います。
三叉神経節ブロック(ガッセル神経節ブロック)、眼窩上神経ブロック、眼窩下神経ブロック、下顎神経ブロック、おとがい神経ブロックなどがあります。
局所麻酔薬によるテストブロックで効果がある場合、高周波熱凝固法(RF)を行い、神経を熱凝固させることで痛みが出ない状態にします。

痛みについて

痛みの種類

痛みは起こる原因によって、侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・心因性疼痛の3種類に分けられます。

侵害受容性疼痛

ぶつける、切れるなどによって生じる痛みで、打撲・捻挫・骨折・切り傷、など日常的な多くの痛みが侵害受容性疼痛に含まれます。ズキズキ、ジンジンなどと表現されることが多いです。一般的な痛み止めが効く痛みです。

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛神経自体が障害を受けて生じる痛みです。
ピリピリ、ひりひり、焼けるような痛み、針で刺されるような痛み、しびれを伴う痛みなどと表現されることが多いです。

一般的な痛み止めはほぼ無効です。神経障害性疼痛用の薬は効果が出るまでに時間がかかる上、効果はさほどありません。痛みの程度が強く、日常生活に大きく支障をきたします。神経障害性疼痛に対して鎮痛を行うには、内服治療よりも痛みを遮断し、血流改善効果で神経保護作用のある神経ブロックの方が効果的です。

心因性疼痛

心因性疼痛心理的要因で生じる痛みです。
慢性的な痛みでは多かれ少なかれ心理的な要因が絡んでいることが多くあります。
痛みが長く続くことで仕事や日常生活が妨げられたり、周囲からは痛みに対して理解が得られず怠け者扱いされてしまったりするなどして、精神的に追い込まれてしまい、うつ状態になってしまうこともあります。こうした状態は痛みをさらに悪化させることがわかっています。

痛みの状態

痛みの悪循環

障害を受けた組織では炎症性物質が放出され、神経を通じて痛み刺激が脳に伝わると交感神経が刺激されます。これにより血管が収縮し、筋肉は緊張し、血流が悪くなるため、障害を受けた組織ではさらに炎症が悪化、痛み刺激がまた脳に伝わります。脳は通常、痛みに対する防御能力があり伝わってきた痛み刺激を間引きますが、痛み刺激が繰り返されるとこの防御能力が低下して痛みを強く感じてしまいます。こうした状態を繰り返しているうちに雪だるま式にどんどん痛みは増強してしまい、脳では本来の痛みよりも強く認識されてしまっていることもあります。

こうした状況を痛みの悪循環といいます。通常、傷ついた組織は一定期間で修復が進みますが、この過程がうまくいかなかったり適切に痛みのコントロールがなされないと痛みの悪循環に陥ってしまうわけです。慢性的な痛みはこの機序が絡んでいます。

痛みの感作

痛みが長く続くことで神経や脳が痛みに対し過剰に反応してしまう状態です。神経痛はこういった状態を起こしやすく、慢性痛には多かれ少なかれ、この機序が存在し、痛みを強く感じています。

神経ブロック以外の痛みの治療法

痛みの治療法はいろいろあり、神経ブロックが全てではありません。治療法は痛みの程度と効能への満足度で決まると思います。どんな治療法にも限界はあり、痛みを0にすることを目標にすべきではありません。治療効果がどこまで得られているのかは日常生活での痛みの程度で判断すべきです。

内服薬

出される薬はどこでも同じです。残念ながら、ペインクリニックに魔法の処方箋があるわけではありません。一昔前、ペインクリニックではてんかん薬を神経痛に使用するという独特の処方がありましたが、この薬は使いやすく改良され、神経痛の薬として販売されました。製薬会社も積極的に内科や整形外科に売り込んだため、今では一般的処方薬となっております。つまり、大病院であろうが場末の小さな診療所であろうが内服薬による治療は一緒です。

魔法の処方箋はありません。

市販薬

市販薬の目的は軽症患者さんが、医療機関に行かなくてもある程度自分で痛みを解決できるようにする事です。自己責任で使用するわけですから副作用の観点から、医師の責任下で処方される処方薬よりも薬の含有量は低くなるように制限されております。

テレビで通販CMをしているこの種の痛み止めは、とにかく「効く効く」だけを連呼して処方薬よりも優れているかのごとく誇大に、過剰な宣伝をしておりますが、その根拠が全くありません。そもそも処方薬を超えるものであればとっくに保険適応になっているはずです。
少なくとも医療機関で痛み止めをてんこ盛りに出されているあなたにとっては全く無用のものでしょう。市販薬の目的は上記の通り、軽症患者さんが、医療機関に行かなくてもある程度自分で痛みを解決できるようにする事であり、それ以上のものではありません。

患者さんから相談されたときは、そのお金で美味しいものを食べた方が良いですよ、とアドバイスしております。

外用薬(湿布・塗り薬)

打撲や捻挫、筋肉痛などによいでしょう。清涼感が欲しい場合は湿布を大量に使用するのでなく、ハッカ油を使用するとよいと思います。神経痛に対して治療効果はありません。

坐薬

胃が弱いから坐薬を使用するというのは間違いです。胃粘膜障害は薬の成分が胃粘膜の防御能力を低下させることで起こるので、坐薬であっても腸で吸収されてその成分が血液中に入れば、いずれは胃に到達し同じことになります。経口摂取が困難な場合にはよいでしょう。坐薬が特別に強力なわけではありません。内服薬で十分です。たとえ癌性仏痛であっても鎮痛薬使用の原則は経口なのです。神経痛に対して有効な坐薬はありません。

点滴

痛み止めは時間で切れますので、入院でもしていない限り点滴を定時で行うのは無理です。癌性疼痛や特殊な疾患の治療を行う場合が対象でしょう。1回だけ痛み止めを点滴したところで意味はないと思います。また、神経痛に対して有効な点滴用製剤はありません。

物理療法(機械による温熱・振動など、いわゆる電気治療)

電気による患部の温め、振動によるほぐし、などの治療です。時間は10分程度がほとんどです。施行する側は機器のスイッチを押すだけでよく、特別な技術は入りません。痛みの部位を動かすわけではないので患者さんから痛いと文句を言われることもなく楽、受ける側も、自分で動かすわけではなく、寝ているだけでいいので楽です。楽なのはその時だけで効果はほぼ見込めず、リラクゼーションの範囲と考えた方が良いでしょう。現在、こういった機器は医療機関以外にも広く普及しており、わざわざペインクリニックで行う意味はないと私は考えます。当院には1台もありません。

マッサージ

筋肉は収縮することで血流が生まれます。これを手で行うものです。痛みが取れないという問題には強く揉むだけの対応になるので、筋肉が炎症を起こします。もみ返しはただの筋肉の炎症です。特に首の筋肉は小さいので強く揉む必要はありません。マッサージで解決できる範囲はわずかで、治療になるものではありません。リラクゼーションの範囲にとどめるべきでしょう。揉んで解決するなら医学はこの世からなくなるでしょう。

筋膜リリース・ハイドロリリース

癒着した筋膜を超音波ガイド下で液体を注射し剥離する治療法です。コリやハリなど筋筋膜性疼痛に行います。保険適応外の治療です。接骨院や整体、アスリートトレーナーなどが、ただのマッサージに対してでも筋膜リリースという名称を使い始めたので、医療施設における注射による治療法はハイドロリリース(液体によるリリース)と区別して呼ぼれるようになりました。高解像度の超音波画像装置が普及したこと、手技自体が簡易なことから急速に普及しておりますが、適応疾患を誤っているケースも多く何でもかんでも行うのは問題があると感じます。当院では施行しておりません。

トリガーポイント注射

強く押されると痛みを生じる部位をトリガーポイントと呼びます。(トリガーは銃の引き金のこと)コリやハリなどの筋筋膜性疼痛は良い適応です。神経痛に対して施行する意味はあまりないでしょう。当院では施行しておりません。

手術

侵襲が高く、それなりにリスクもありますが、時には最善の選択肢になります。脊椎疾患においては進行性の筋力低下や排泄障害など機能障害が出るときは最優先の治療法です。当院では手術の方が良いと判断される場合には、はっきりと伝えております。手術は症状進行の抑制という目的で選択されることがほとんどです。手術を受ければ全ての痛みが治るというのは大きな誤解です。痛いから手術するわけではありません。手術をしても痛みが残ることもあります。手術を受ける場合は、何を目的として行うのかをきちんと確認する必要があります。

TOPへ戻る
TEL:048-650-1717